おじいさんのあの大きな古時計

 

 

 ■ 数え年99歳の天寿をまっとうした明治の気骨ある老人の棺に、人々がお別れの花を寄り添え、最後の悲しい別れを惜しみながら、やがて静かに出棺しようとしたその時、棺の前にいた小さな男の子が、突然、歌を歌いだした。

 

  あの「大きな古時計」を歌いだしたのである。

  誰もが予期していなかった突然の出来事であった。

 

    「おおきな のっぽのふるどけい おじいさんのとけい

      ひゃくねんいつも うごい―ていた ごじまんのとけいさ」

 

  少年の律儀でそして明るい歌声が響く。

 

    「おじいさんの うまれたあさにかってきたとけいさ

      いまは もううごかない そのとけい」


  人々の心に悲しい思いがこみ上げてくる。

 

    「ひゃくねんやすまずに チク タク チク タク

      おじいさんといっしょに チク タク チク タク

        いまはもううごかない そのとけい そのとけい」

 

  老人が歩んできた百年を、まるでいたわるような少年の優しくて清らかな歌声が、人
に大きな感動を与えた。

 ■ 少年は、老人のひ孫である。あと3日で小学校に入学する。


  そしてまたひゃくねんチクタク チクタク働き続けてきて今はもう動かない老人と少年の不
  思議な命のつながりを感じさせるものでもあった。
  

  それは老人にとって本当にふさわしい別れであった。

   
       外は春、今桜は満開である。





               2008/04/05  滋賀 甲西

お便り 4月